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TVリポーター 藤村アスミ2 外崎香織視点



「囚人番号0028番、外崎香織、第1姿勢の解除を許可します」

 間隔の狭い鉄の格子扉越しに姿を見せた女看守が、抑揚のないつまらぬ声で、
きわめて事務的な命令をわたしに与える。
 第1姿勢とは、監房内点検の時にわたしたち囚人が取らなければならない姿勢のこと。
両脚を軽く開き、寝台に浅く腰掛けて、両手は長めの手錠の鎖をピンと張り、胸の前で掌を開くことを強制される。
わたしの着せられている粗末な囚人服は、薄いブルー色をした丈の短いワンピース型のもの。
だからこのような姿勢になると、わたしの下着までもが、看守の目に晒されることになる。

たしかに看守側にとっては、囚人の身体検査は重要な仕事だろうし、
ましてわたしは厳重拘禁刑の受刑者なんだから、それに抵抗する理由もないのはわかっている。
ただ、もういいかげん毎回のこととはいうものの、これって決して気分のいいものではないことは事実。
それでも、一度で解除許可が出ると、やけに嬉しいものだったりするから不思議だ。
わたしはそそくさと腕を下ろし、脚を元の形に戻して座りなおした。
同時にわたしの両手足首の枷に結わえ付けられた鉄鎖が、冷たくジャラリと音をたてる。
わたしがここに収容されてから、はじめの数ヶ月はこの姿勢を何度も何度もやり直しさせられたっけ。

脚の開き加減、鎖の張り具合、背筋や指先の形までを細かく要求されて、
キチンとできるまでそれはひどく怒鳴られた。下着越しの股に鞭の柄をギュッと押し当てられたり、
桶の水をかぶせられたりしたこともあった。
悔しいけど、こんな屈辱の体勢を取らされることにも、徐々に慣れていったんだなと思う。
いまはもう看守の号令一つで、身体が勝手に動いてしまうんだもの。
 
わたしが受けているのは、厳重拘禁刑という刑罰。通常の日は、ほとんどの時間を、
この狭くて薄暗い檻の中で静かに過ごさなくてはならない。
もちろん、ただの禁固刑とは違い、手や足には重くて冷たい鎖のついた鉄枷。
おまけに革の防声具を嵌められて、そして首枷という姿。まるで映画に出てくる奴隷の少女ね。

やっと薄手の囚衣一枚だけを身に纏うことを許されて、多くの鉄枷にきつく縛められているわたしの姿は、
きっと情けなくて、とっても哀れに違いないだろうな。


付加刑の定期懲罰は週に2回。私は別の棟の公開懲罰室へ移送されて、
他の女囚に対する見せしめのような責め苦を与えられている。
これはここに収容されてから、わたしが自ら希望した処遇。
あたりまえだけど、痛いし、恥ずかしいし、苦しい。
もちろんそのことにより、わたしの刑期がちょっとだけ短縮されるという理由があるからなのだけど。
自分の犯した罪は、簡単に許されることとは思わないし、しっかりと償わなければならないと思う。
でもここでの生活はあまりに厳しくて、あまりに辛い。とにかく、早くこんなところから出たい。
自由な姿になりたい。それが今のわたしに残っている、ただ一つの希望なのかもしれない。
だからわたしは公開懲罰を望んで受けている。

通常日の今日は、この点検のあとにいったん防声具を緩められて、朝食の配給が行われるはずだった。
でもいつもと様子が違っていた。

点検を終えた看守が、そのままわたしの監房の前から姿を消したのだ。
わたしがいつも嵌められている防声具は革製のもので、棒状の装具を咥えさせられたまま、
複数のベルトと錠で固定されている。外されるのは食事時間の前後、数十分だけ。
大きな声を出して騒ぐつもりもないけれど、強制的に発声を封じられているのは酷く不自由に感じるもので、
毎朝の食事前に外してもらえるのを密かに心待ちにしていた。

だけど今のわたしには、のどの渇きを収めるには、あふれる唾液を飲み込むしかない。

そうこう思っているうちに、女看守が2人、わたしの監房の前に再び姿を見せた。
一人は朝の点検の号令をかけたさっきの看守。もう一人は・・・初めてみる顔だった。
わたしと同じくらい、もしくはもっと若いくらいの見た目の女性。
女の子という表現でも間違いじゃないかもしれない。
よく見るとさらに奥側には、わたしビデオカメラを向けている人物もいる。
彼女も看守の制服を身に着けているので、おそらく監視役か何かだろう。
こんなわたしの姿を撮影していったい何が楽しいんだろうか。

おもむろにいつもの女看守が口を開いた。
「本日これより、あなたを、新設された厳重拘禁刑専用収容棟に移送します」

「!…???」

最初はその意味がよくわからなかった。
わたしが、新収容棟なるものへの移送を告げられたのはまったくの突然だったから。
もっとも刑務所の内部事情など、わたしのような女囚になど知らされないのも当然のことだけれどもね。
一切の外部情報と隔絶されたこの閉鎖空間で、悲しくも鎖に繋がれたわたしにもたらされるのは、
看守の言葉だけ。わたしはその指示に従い、命令を受け入れるほかないのは、悲しいけれど、事実だから。

「0028番、い、移送準備のため、た、直ちに監外着を着用することとします」
 若い看守の子は、ちょっと震える声でわたしにぎこちなく命じた。緊張がとってもよく伝わってくる。
 名札の下には「研修中」とのプレートが下げられている。今回がおそらく初めての大仕事なのだろう。

「葛城、早く、鍵」

「あ、は、はい」

 先輩看守に促され、「葛城」と呼ばれたその新人看守は、おぼつかない手つきで
わたしの入れられている監房の鉄格子を開けた。

 私に着用が命じられた「監外着」。
それは、わたしが懲罰や入浴・運動、または何らかの理由で監房外に出て移動する際に着用させられる、
厳重拘禁刑の受刑者専用の拘束衣のこと。
入所時に細かく採寸され、わたしの身体に完全に密着するように作られた上下繋がりの革のスーツで、
拘束用のベルトや尾錠、また色々な装具が取り付けられるような構造になっている。
もちろんインナーの着用などは許されるわけもなく、きっちり全裸に剥かれた上で装着させられる。
 この監外着は、普段の枷と鎖よりもはるかに強い拘束力で、私のちいさな身体を、ぎゅうぎゅう圧迫し狭窄してくる。
まさに監房の外にいるわたしを、厳重に閉じ込めるための衣服、ということ。
こんな衣服を女囚達に着せて歩かせるなんて、ここの刑務所長はよっぽどいい趣味をしている。

いつもならベテラン看守の手際がよいので、あっという間に装着が完了するのだけど、
今回はどうやら研修中の看守見習いに行わせるらしい。
まったく監外着を着せられる間というのは、ただでさえ苦痛で屈辱的な時間なのに、
練習台にされるような形となって、気分が悪い。
「じゃあ、えっと、まず、いまから枷を外すので、あなたは衣服を全部脱いでください」
気持ちを感じ取ったのか、思いのほか丁寧な口調で、葛城看守はわたしに命じた。
先輩看守は思わず失笑していたが、特に何も口出しをせずに見守っているようだった。
若い研修中の看守とはいえ、もちろん立場的にはわたしが下。
防声具もつけられたままなので、言われるがまま、黙って囚人服を脱ぎ捨てた。
「え、と、下着も脱いでください、いや、脱ぎなさい」

なんだかよくわからない新人看守の命令だけど、ちょっとだけ可愛かったので素直に応じてみた。ゆっくりと灰色の囚人用のショーツを手にかけ、スッと床にまで下ろす。
とはいえ、ここに収容されてからというもの、命令されて全裸になるという行為に何の疑いもなく服従するように、
身体が躾けられているともいえるかもしれない。

「では、壁に手を付いて立ちなさい」
わたしへの命令に慣れてきたのか、彼女から徐々に看守らしい口調が聞こえてきた。
「わたしの命令があるとき以外には、動いてはいけません」
全裸になって立たされたわたしは、命じられるまま監外着を身に着けさせられていった。

つま先までぴっちりと覆うブーツ状の脚部に両足を挿しいれさせられ、
そして上半身も首までしっかりと覆われて締め上げられていく。片腕ずつ手首まで覆われると、
さらに両手には革のピッタリとした手袋が嵌められた。
 葛城看守は、先輩から細かく指示を受けながら、わたしの監外着の締め上げを続けている。
そうしているうちに、全身の拘束が完了した。
 むせ返るような、革とわたしの汗が入り混じった匂いが鼻を突く。
 わたしがここに収容されてから、もう数え切れないほどこの拘束衣を着せられているし、
悔しいけどすっかり身体にも馴染んでいるが、この匂いだけはどうにも慣れることができなかった。

全身を締め付けながらわたしの身体に張り付くこの拘束衣は、
しかし、まだわたしを完全な拘束状態にはしていない。


「え・・と・・」
「次はAVプラグでしょう」
戸惑っている葛城看守を先輩看守がフォローする。
明らかに、わたしにも聞こえるような大きさの声で耳打ちをしている。
「は、はい、じゃあ壁に手を付いて立ちなさい。」
AVプラグとは、この拘束衣を身に着け終えたあと、最後に施される股ベルトにつけられた挿入具のこと。
AもVも、つまりはその頭文字だ。
わたしはこの瞬間だけは、頭の中を空にして何も考えないようにしている。
努めて無反応を貫くことで、多少なりとも屈辱感を軽減することができるから。

葛城看守がわたしの監外着の股部に設けられた開口部を押し広げ、革手袋を嵌めたまま作業に取り掛かった。
「うぅ・・・・・」
 思わず声が漏れる。無意識なつもりのに、やけに悔しい。
 新人はとにかく手際が悪い。必要以上にわたしの敏感な部分に指を這わせてくる。
「う、動かないでください!うまく塗れないでしょう…!」
 挿入前に、わたしの二つの孔の周辺にはいつも潤滑剤が塗られることになっている。
葛城看守はどうもその加減に大きく手間取っているらしい。
 もうちょっと、こう、スムーズやって欲しいものだ。

「もういいでしょう。貸しなさい、・・・・次はこうするの」
 先輩看守の声。
 同時に、潤滑剤をたっぷり含ませた2本の挿入具が、わたしの中に滑り込んできた。

ぁあぅうううっ・・・・」
私の口から、情けない声が漏れる。

「少し多めに塗った後、こう、ゆっくりと…。よく覚えておきなさい」
先輩の女看守は、わたしのことなど全く気にかけずに、葛城看守に指導を続けている。
「固定して」
「は、はいわかりました。」
指示に従い、葛城看守は私の後ろに回った。
その後、私の中に入れられた2本のプラグは革の股ベルトできっちりと締め上げられ、
ようやく全ての監外着の装着が終了した。
「うぅ・・・くぁ・・・・はぁ・・・」
わたしは喘ぎ声を漏らし続け、防声具がだらしなくわたしの唾液で濡れていくのがわかった。

「さ、両手を」
女子看守の簡潔な命令が遠くから聞こえる。
わたしは、鈍い動きで、命令どおり両手を葛城看守の前に差し出した。
今度は手際よく革手袋の上から、金属の枷が嵌められ、しっかりと腹部の前で監外着のベルトに固定された。
足枷も同様に施された後に、ようやくこの檻の外に出て歩くことが許される。
「それでは、移送のため囚人の待機場所へと連行します」
2名の看守に前後を挟まれるように、わたしは独居監房の並ぶ暗い回廊をゆっくり歩く。
いや歩かされていく。

くちゅ、くちゅと、プラグが音を立て、革の監外着が、歩みを進めるたびに、ギュッ、ギュッと軋む。
わたしの四肢を繋ぐ鎖の、冷たい金属音が響き渡る。
このような屈辱的な拘束を施されないと、檻の外すらも歩くことが許されない、
それが今のわたしのおかれている立場。
 新収容棟への移送?
 でももう今のわたしにとってはどうでもいいこと。
 そう、もうどうでもいいんだ。
 わたしは、囚人だから。
 わたしは、全ての自由を奪われている女囚という存在だから。
 場所が変わっても、この鎖の音、革の匂い、深々と差し込まれたプラグの痛み。
 それらはきっと、何もかわらない。

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