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厳重拘禁囚 鮎川壬姫20 4等級棟 集中懲罰室 観月美冴刑務官編

20

…   ぷしゅー…。

…   ぷしゅー…。

集中懲罰室。
待機所としての鉄檻と大型の刑具が設置された空間。

二人の少女が、その不自由な身体で必死に藻掻く。
二人の少女が、その不自由な身体で必死に藻掻く。
無機質な管理プラグの作動音。
封じられた口から漏れる微かな息づかい。
額から流れ、頬を伝う汗。
ピッタリと身体を覆うラバーの緊身衣が、ギュッと軋み音を立ててつつ伸縮する。
延々と続けられる、きわめて単調な”運動”に連動しながら。

少女囚達は背筋を張り、太腿をまっすぐに上げ、そして静かに下げる。
足枷の鎖をじゃらじゃらと鳴らしながら、動く床面をブーツで踏みしめ、歩き続ける。
彼女達のその後ろ姿は、飼い慣らされつつあるポニーのようでもある。
最上級の哀れな姿であることは間違いない。
だがこれは一種の様式美。
一切の乱れはこの私、観月美冴が許さない。

…ン?珍しい。
今回は二人同時に姿勢が崩れたな…?。
しかもA01にとっては今日初めての記念すべき一閃だ。


ピシィッ!!!
「ぅぅーッ!!!」

ピシィッ!!!!
「ぃぁぁーーーーッ!」

良い声だ。
防声具によって程よく叫び声が抑えられ、それが極上の悲壮感を演出する。

そもそも今日は鞭の手応えが良い。
ピチピチに張り出した少女達の身体は、弾けるように鞭に反応する。
なんとも言えぬ美しさを感じさせてくれる動きだ。

私に強かに打ち据えられ、悶え、喘ぎ、涙を流す少女囚。
それでも強制され続ける恥辱的な下半身の律動。

そう…。
これは懲罰という名の”調教”だ。
そして貴様達は囚人という”奴隷”。
理由はどうあれ、ここに墜ちるに至った身。
自身の過去を呪っても、犯した罪を後悔しようとも、所詮許されざる罪人という立場。
貴様たちは私の鞭を、そして私の存在自体を恐れていることだろう。
ふふ…それは大変光栄なことだ。
さあ、貴様達、その動きを止めるなッ。
藻掻き苦しめッ。
次の一閃が待っているぞッ…!








「葛城」
私は横に控えている部下を呼ぶ。
「はい」
葛城沙由梨。
若年層枠で採用された優秀な刑務官だ。

同期の早瀬明夜とともに、A01と02の4等級囚を担当することを私が命じた。
その二人の4等級囚は年齢も低く、比較的扱いやすい囚人だという報告で行った人事。
今後に必要な技術を磨くのには最適…という判断だった。

「カウントを報告」
「はい。A01が3、A02が9です」
これは懲罰開始からの鞭打ちの回数だ。

一回の懲罰では鞭打ちの上限回数が10回と決まっている。
最低限の人権には配慮するという、くだらない規定だ。
本当は緊身衣の上からではなく、生肌に打ち込んでやりたいところだが、
それも規定により禁止されている。
まぁ、私が本気を出せば、たったの数回で皮膚が裂けてしまうだろうから、
当然といえば当然だ。

「観月さん、時間過ぎました」
もう一人の部下、早瀬の声。
あまりに激しい懲罰のため、鞭打ち回数同様に、執行時間にも制限がある。
「了解、作動を一時停止。水分を補給してやれ」
「はい」
早瀬が私の命令に機敏に応じる。
彼女もまた優秀な刑務官だ。

…だが、葛城からの情報によると、特にA01…「鮎川壬姫」という名の少女囚に
少々感情が入りすぎているそうだ。
葛城自身も、私から言わせれば大差ないとも思えるが。

若い連中は、どうしても年の頃の近い彼女たちに今ひとつ非情に徹し切れていない。
…甘いな。
まぁいい。
その気持ちはわからないこともない。

鞭を振り翳す冷徹で残酷な刑務官。
私の姿は、まさに悪役そのものだろう。
そういう損な役回りは私だけで十分だ。
お前達が心の拠り所になってやるがいい。

だがよく覚えておけ。
目の前にいる緊身衣を着た対象は、少女の姿をした罪人達だ。
我々の使命は、彼女たちを厳重な拘禁と限界を超えた懲罰で徹底的に矯正すること。
それだけだ。
私情を挟むことなどあってはならない。
…ここでは私のような存在が絶対に必要なんだ。




早瀬がA01に、葛城がA02に、それぞれ少量の水を飲ませている。
ほんの一時の休息。
防声具を解かれ、その露わになった顔には、微かな笑みも零れている。
それは絶対に私に対しては見せない、少女達本来の姿…なのかもしれない。
担当を命じてから明日で10日もの日々が経つ。
葛城達は彼女らの担当刑務官として、相応の信頼を得ているのだろう。
こういう人間関係の構築は、正直に言うと私の一番苦手な範疇だ。

その点においては、お前達には一目置いている。
だけれども…
例え憎まれようとも、恐れられようとも、
私の仕事は、彼女たちにこの鞭を打ち込むことに変わりはない。

「休息終了、囚人に防声具装着。再作動せよ!」
私は再び命令を出す。
「はいッ」
「了解…!」
部下達の返事とともに、刑台が動き出す。
少女囚達は定められた動きを繰り返し始めた。
緊身衣が軋み、小さな喘ぎが再び漏れ聞こえ始める。

私はその背後に近づき、その特殊な行進に目を光らせる。
そして鞭を持つ手に、グッと力を込めた。

A01。鮎川壬姫。
今回唯一、一般の少女刑務所から移送となった囚人。
著しい素行不良で厳重拘禁処遇とされ、残りの刑期をここで過ごすこととなる。
当初の報告は確かにそうだった。
実際に、度重なる暴行や脱走未遂を犯し、相当の問題囚だったとも聞く。
私は当初、かなりの期待を寄せていた。
暴れ馬であればあるほど、手懐け甲斐があるというもの。
弥が上にも気分が高揚する。
そして思惑通り、私の振る舞いに反発。

ここでの”洗礼”を浴びせてやった。
見せしめとしては完璧なシナリオ。
絶対的な権力と恐怖に完全に服従せざるを得ない自身の立場というものを、
鮎川だけでなく全移送囚に叩き込むことができた。

あのような状況で私に意見することなど、誰でもそうできることではない。
そういう意味で、鮎川は非常に興味深い囚人であった。

しかも厳重拘禁囚に似つかわしくないその優れた容姿。
縄、鎖、枷。
あらゆる戒具が、彼女をより一層引き立てる。
ラバーの緊身衣に身を包み、鞭に怯えながら必死に繰り返す屈辱のウォーキング。
厳しく拘束され、藻掻き、責め苛まれ続けるその様は私を存分に愉しませてくれている。
鮎川とは毛色の違うA02、巽リサも含め、貴様達は最高の素材だと断言しよう。
実に絵になる。
実に美しい。

そう、美しいものにこそ、この私の鞭が相応しい。
この場所で行う”調教”は、私と彼女たちの最高のステージ。
招待されるのは4等級囚のみの特別待遇。
実に魅惑的なショーだと思わないか。


ピシィッ!!!

ピシィィィッ!!!

そして私は再び鞭をふるう。
喘ぎ、叫び、仰け反る、台上の美しき雌馬達。
さぁ、その可愛らしい顔を恐怖の色に染めあげてやる。
私を憎むがいい。
そして恐れるがいい…ッ!











「観月さん、終了時刻です」
早瀬か。
時間が経つのは速いものだな。
今日はいつにも増して気分が高揚していたためだろうか。
「…解いてやれ」
「はい」
「はい」
早瀬がA01鮎川の、葛城がA02巽の、それぞれの拘束を解いてゆく。
私は愛用の鞭を腰に戻し、その様子を眺めていた。
よく耐えているものだと、正直感心する。

どれ、久しぶりにその顔を正面から拝んでやるとするか。
もっとも、その表情は恐怖に引きつっているだろうが。
私は大げさにブーツの踵を鳴らしつつ、ハーネスを外されたばかりの囚人の側に近づいた。
床面に転がる、大量の粘液を纏った管理プラグ。
ラバーに包み込まれた肉体の放つ熱気と、独特の甘い匂い。
そして解放された口から滴る唾液と、頬の乾いた涙の跡。
”調教後”のこの光景も、実に素晴らしい。

「え…?なに…。……そう、…いいわ」
早瀬が鮎川の様子を察知し、なにやら彼女の耳元で囁いている。
そして軽く背を叩き、胸に下げていた笛をピッと一回鳴らした。
「ミキさん、発声許可します」
唐突に早瀬はそう言うと、彼女の後ろに一歩下がり両手を後ろで組む。
A01は一度両眼を閉じ、そして深く息をついた。

一体どうしたというのだ?
唾液で光る防声具を外されたばかりの鮎川が、私に向き合った。
つい先ほどまで、深々と管理プラグを銜え込まされていた股間から流れる液体が、
緊身衣に締め上げられた太腿を濡らしている。
微かに震える両脚のブーツ。

ぷくりと屹立したままの、赤く変色した乳首。
そのような哀れな姿にもかかわらず、彼女の目は私をしっかりと見据えている。
その色に、怯えや恐れの色はない。
意を決したかのように、彼女はおもむろに口を開いた。

「あ…あの…、観月さん…今日の懲罰……あ、ありがとうございましたッ!」
なッ…、何だと…ッ??
予想もしなかった発言に、私は不覚にも一瞬身を引いてしまった。

「…何度も姿勢を乱してしまい、も…申し訳ありませんでしたッ。ほら…、リサも…!!」
同じような姿で、巽も私に向かい合う。
すかさず葛城が彼女にも発声を許す。
「は、…はぅぅッ…、あ、ありがとう…ございます…ぅ…」

…ッ…!
何なのだ…?
貴様たちは…いったい…??

「今更…ですけれど、わたし達は、自分の罪の深さを思い知ることができました」
「それを、…教えてくれたのは、…はぅ…、きっと観月さんの鞭なんだって…」
言葉の自由を得た少女囚の二人は、次々に口を開く。
「辛く厳しいここでの生活も、自分への戒めとして、…これからも受け入れる覚悟です」
「は、はぅ…、わたしも、がんばって、許される日まで耐えていきます…ぅ」
震える声ではある。
だが、こんな状況で、そんなことを…ッ!?

「必ず更正を誓う決意、これを今日はどうしてもお伝えしたかった…とのことです。
 私の独断で許可しました。どうかお許しを…」
早瀬が軽く顔を伏せながら、二人の少女囚の肩に手を掛けて補足した。
葛城は黙って頷きを繰り返している。
「ありがとうございます」
「ありがとう…です」
少女達は緊身衣を軋ませながら、ゆっくりと私に頭を下げた。

な…
こ…この私に感謝だと???

馬鹿な。
そんなはずはない
私は冷徹非情な観月だぞ。
容赦ない鞭を浴びせ続けた、憎むべき刑務官。
それなのに…
それなのに…?

「はぅ…、最初はとっても辛くて、でも、こうしておしおきををうけ続けているうちに…」
「自分の罪の重さを思い知るに至りました…。安息日を前にした今日こそ、感謝の意を
 どうしても伝えたかったんです。観月さんに…」

「あ、…あぁ、そ、そうか…」
何なのだろうか、この気持ちは。
駄目だッ、貴様達を前に咄嗟に言葉が出てこない。
この私がッ。

「さぁ、以降発声禁止。もう良いでしょう。シャワー後に独房へ戻ります」
少女囚達への早瀬の命令で、私はふと我に返る。

緊身衣を脱がされた少女囚達に、再び黒縄が施されてゆく。
手際よく縄を操る刑務官に、無言で身を任せる彼女たち。
胸を絞り出され、胴を締めあげられ、股縄を通される。
それでも彼女たちは身じろぎ一つしない。




…そうか。
これが、信頼関係というものか。
お前達は、しっかりとこの少女囚達の心を、その縄以外でも捕らえているのだな。
…まったく優秀な部下達だ。

「それでは囚人を連行します。お疲れ様でした」
葛城の報告。そして敬礼。
少女囚二人も、再び無言で頭を下げる。

…貴様達…。

「待て…」
わからない。
何故か引き留めてしまう言葉を口にしてしまう。


「い、いや…。なんでもない。明日は安息日だ。…ゆっくりと休むがいい…」
「了解。そのように伝えます。では」
早瀬は冷静に答えると、少女囚の縄尻をしっかりと握り、踵を返した。

…どう考えても聞こえているじゃないか。
そもそも、今の言葉はお前達に掛けたのでは…ないからな。
私は早瀬と葛城に引き立てられてゆく少女囚の後ろ姿を、ただ無言で見送った。
まずい、動悸が収まらない。
これは初めて味わう感覚だ。

あの少女達を、初めて、一人の人間として見ることができたかもしれない。
そうだな…。
確かにあの言葉は、年相応の少女そのものの精一杯の表現だった。
いままでは、単なる厳重拘禁囚としての認識しかなかったが…。

沸き上がる複雑な感情。
おかしい。
非情に徹せとは、私の信条だったはずだ。

それを部下達にも厳命してきたはず。
けれど…。一体何なのか。この、気持ちは…。

…確かこういう時の感情を表現する、妙な言葉を聞いたことがある。

そう、萌え…だ。

恥ずかしいが、この瞬間、私はその感情を確かに抱いていた。

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