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厳重拘禁囚 鮎川壬姫8 朝の準備  刑務官視点編



新入検査房は、ここへ移監となった囚人が最初の一定期間に入る独房。
その期間に、少女囚たちは各々の性格・体力・知能指数などを判定され、それぞれに最適な処遇を決定される。
私は、同期の早瀬とともに、新入少女囚の調査票に目を通していた。
移送こそ担当したものの、その後すぐに丸一日の休暇をいただいていたので、
本格的に彼女たちと向かい合うのは今日が初めてとなる。
昨日から連続勤務の早瀬に、一歩出し抜かれた気分だった。
私が休んでいた昨日は、簡単な健康診断と、面接による調査が行われている。
今は、早瀬がまとめたその資料の引き継ぎだった。

今回移送された4人の少女囚は、主に私たちがメインで担当することになった。
もちろん主任担当は初めての経験だ。
それだけに気が抜けない。
「葛城、次行っていい?」
早瀬が先を急かす。朝一の巡回業務までもうあまり時間がない。
「あぁごめん、お願い」
私はあわてて再び資料に目を落とす。
刑期の短い順に各囚人の一覧が記載されている。
次が最後の囚人についてだった。つまり一番の長期刑。
早瀬が資料を読み上げる。

「A01番、鮎川壬姫。18歳。傷害、殺人未遂。通常の少女刑務所に収監されていたが、
まもなく自暴自棄となり受刑態度が激しく悪化。厳重拘禁処遇が適当と判断され移送。
残りの刑期は7年」

…彼女が「例の事件」の当事者か…。

少なくとも、先日の移送の際に私が抱いたのは、大人しく従順な印象だ。
それに添付された写真でもわかるとおり、非常に可愛らしい顔。
外見だけで判断することはもちろん意味がないことではあるが、
おおよそ罪人には思えないような容姿だ。
彼女がここまでの事件を起こすに至った経緯の詳細も、資料に掲載されていた。

薄幸の幼少期。
絶え間ない偏見と悪意の嘲笑に耐え、必死に努力を重ねた日々。
ついに掴んだ、つかの間の栄光と未来への希望。
そして、絶望。

僅か18歳。
私と5つほどしか違わない少女が背負った、あまりにも重すぎる運命。

「うん、…まぁ、可哀想な子であることには間違いないよね」
早瀬がポツリとつぶやく。

そういえば移送初日から、観月さんの「洗礼」を受けた子がいると聞かされていた。
早瀬の話によると、洗礼を受けたのはよりにもよってこの子らしい。

「そのとき彼女を縛ったのは…早瀬、なんでしょう」
この棟で、屈指の緊縛の腕を持つ彼女。
同期とはいえ、その実力には到底及びつかない。
そんな軽い嫉妬から出た、ちょっと意地悪な言葉だった。
言ってから少し後悔した。
「…そう。だけどやっぱり気分のいいものじゃない」
早瀬は少し俯いて、長い髪をかき上げた。

刑務官である私たちは、囚人に対し常に非情に徹しなければならない。
だけど時として、本当に自分たちのしていることが正義なのかどうかを疑いたくなることもある。
この少女が、ここまでの苛烈な厳罰を受けなければならない理由は何か。

私は、検査房モニターに映し出された、少女囚たちの映像に目をやった。

A01番と呼ばれる少女囚。
もう既に術を叩き込まれたのだろう。
就寝衣のまま点検前の『第一姿勢』をとり、背筋を伸ばして座っていた。
その華奢な身体を戒めている、数々の拘束具が痛々しい。

そこに反抗的な態度は一切見受けられない。
「いい感じよ、あの子」
「うん、私も移送を担当しただけなんだけど、そう思う」
私たちは頷き合った。
もちろんそれ以前に、私たちには刑務官としての職責がある。
同情はできても、その処遇に変更はできない。
手元にあるのは、それぞれの厳重拘禁囚に対する懲罰執行予定表。
つまり、これから彼女たちには計画的に厳しい責め苦が与えられ続けることになる。
私は、昨日行われた判定に基づいた、A01番に対する懲罰執行予定の概要を読み返した。

これから、これを直接本人に伝えねばならない。
モニターに映し出されたまだ何も知らぬ彼女は、健気に第一姿勢を保っていた。

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